ライフ・イズ・ア・ミラクル~小さな奇跡~
ライフ・イズ・ア・ミラクル~小さな奇跡~
ロバは涙を流しながら、線路に立ちふさがる。
恋を失い、絶望し、自ら命を絶つために。
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1992年。ボスニア。
鉄道技師のルカは、妻と息子と片田舎でのんびりと暮らしている。
賑やかで、明るい村の人々。家の前には線路が走り、ブラスバンドの練習に励み、鉄道模型をいじる日々。
数少ない悩みの種といえば、ヒステリー気味の妻・ヤドランカのことくらいで(このおヒスが結構なものなんだけど)、善良で心優しいルカは、毎日に満足している様子。
テレビでは、ボスニアのあちこちで激しい銃撃戦が起こっていると報じているけれど、セルビア人もムスリム人もクロアチア人もほとんど同じ言葉で話し、外見だって変わりはしない。違うのは宗教くらい。第一、息子の友達にだって、ムスリム人がいるんだし・・・。内戦だなんて、とんだ茶番ですぐ収まるさ・・・。
そんなルカの元に、届いた一通の手紙は息子ミロシュ宛ての招集令状だった。
「戦争は無い」 と言う軍人の友人の言葉をあくまでも信じ、息子を送り出すルカ。
息子は戦争へ、妻は男と駆け落ち、一人残されたルカは息子の帰りを待ちながらの一人暮らし。
日々激しくなっていく爆撃の下、まるで戦争なんて起きてはいないという風情で、日常を過ごす。
けれど、そんなルカをあざ笑うかのように息子が前線で捕虜になったという悲報が届く。
初めて、戦争と向き合うことになったルカ。この戦争はブラウン管の中で起こっていることではなく、平穏だった彼の人生、家族を引き裂くもの。
絶望するルカの唯一つの希望は、捕虜となったムスリム人の娘と自分の息子を交換すること。交換が成立するまで、彼女との同居が始まるのだが、こともあろうに彼女と恋に落ちてしまった・・・。
息子か、愛する女性か?二人とも等しく愛しい・・・。ルカの苦渋の選択は???
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ボスニア戦争という悲劇をモチーフにしながら、この物語は可笑しい。(本当です)
「動物映画か?」かと思うほど、沢山の動物が出てくる。いやむしろ、動物も人間も同じ村の住人と言ったほうが正しいのかも。勿論、難民熊とか平和の象徴である鳩が落ちてきてそれを犬と猫が奪い合い喧嘩をするといったようなメタファーでもあるけれど。きっと監督にとっては人も動物も同等の登場人物なのだろうと思う。
その登場人物たちがとても可笑しい。
ミロシュの肉に喰らいつく食い意地の張った猫。怒っても揺すっても放さないので、終いには新聞で叩かれる。
こんな動物による面白シーンがたくさん。
「ほとんどのユーゴスラビア人は戦争が起きるなんて思っていなかっただろう」と語るサラエヴォ生まれのクストリッツア監督(外国で映画の撮影中に祖国で戦争が起きてしまった。)の想いは想像を絶する悲痛なものだと思うけれど、「悲劇は悲劇ではあるが、そこには人々の生活があり、哀しみは勿論、可笑しい出来事だって、人を愛することだって起きる」ことを見事に見せてくれた。
豊かなイマジネーションと、心優しい可笑しな登場人物たちと共に。
ムスリム人の友人が、銃を買ったと語ったときもラマダン明けの菓子を渡しに来て、去っていったことの意味にルカの息子ミロシュは気づかない・・・。友であり、家族ぐるみの付き合いをしていた隣人が、いつの間にか敵になってしまうことが、現実感のないまま起きてしまう。
現実は残酷で困難でひどく理不尽だけど、精一杯生きて人を愛し慈しんでいたら人生は生きるに値するものなんだ。
「私は人生というものの奇跡を信じている」と語る監督のこれは、豊かで切なく美しい映画。
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とても素晴らしい映画でした。
豊穣なイマジネーションの断片の中に重要な意味がある作品。映画らしい映画だと思います。
本当に是非、多くの人に劇場に足を運んでほしいです。ちょっとした素敵な奇跡が見れますから。


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