筆の海
虫よ 虫ないて因果が尽きるなら
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「蟲に体を侵食されながら蟲を愛でつつ、蟲を封じる。そういう娘が一人いる」
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荒涼とした土地に建つ屋敷。
その屋敷の地下には膨大な書物の眠る書庫がある。そこにある書物は禁種の蟲を封じた秘書。
淡幽は蟲師のたまと二人、その屋敷に住んでいる。
秘書を守る者として、そして自分の体に住まう蟲を封じるために。
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かつて、全ての生命を消さんとした蟲が現れた。
それは異質な蟲だった。
なぜなら本来、蟲は動植物と同調して生きるものなのだから。
その蟲を身重の体になりながら封じた者がいた。
その者は全身墨色になり赤子を産み落とした後、命を落とした。
以来、その子孫の何代目かに一人、体の一部に墨色の痣を持つものが生まれる。
禁種の蟲を体に宿し、その蟲を眠らせる事の出来る力を持つ者。
淡幽の右足を覆うようにある墨のような痣。
狩房家四代目筆記者 淡幽。
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淡幽が背負わされた宿命。
逃げることも投げ出すことも許されぬもの。
それを幼い淡幽に告げるたまの言葉に隠しても隠し切れない苦悩が滲む。
けれど淡幽は宿命を受け入れ、その遣り切れない辛さや悲しみを口にすることなく、蟲に呪をかける時に生じる苦痛をこらえながら、たまの事を案じるような少女だった。
たまの顔に穏やかな微笑が広がる。
人それぞれ人生に逃れようのない命があるのなら、この聡明で心根の優しい少女に会い、仕える事が出来た事は幸せだとたまは思ったのだろう。
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外の世界に出て行く事の出来ない淡幽が最も多く触れるのが、蟲の話。
目にする多くの書物はおそらく蟲に関する書物。
そんな彼女にとって、たま以外に親しんでいるものは蟲だったのかもしれない。例え、その体が蟲に蝕まれているとしても。
だが、身に住まう蟲を眠らせるためとは言え蟲師たちの口から聞く話は殺生の話ばかり。
しかも彼らの言葉の裏には「微小で下等なる生命への驕り、異形のもの達への恐れ」が見え隠れする。
「殺さずとも済むのではないか?」
そんな淡幽の言葉を一笑に付す蟲師たち。
生きようする命に何の違いがあるのだろうか・・・体の痛みは同時に心の痛みを伴うものとなった。
そんな時、ギンコに出会った。
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「じゃぁ、殺さねぇ話な。ああ、そっちのほうが随分、多いな。」
そんなギンコの言葉に口元が綻ぶ淡幽。
時折訪れるギンコの話にどれほど淡幽の心が慰められたろう。
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ギンコが手にした書物の文字が、崩れ堰を切ったように書庫の外へと向かう。
封が解けたのだ。
外へ外へと向かう蟲達が、部屋の壁と言わず天井と言わず蠢く。
それはまるで、文字で作った牢獄のよう。
けれど、捕らえられたのは蟲達。
「私にだって出来る蟲封じはあるのだぞ」
そう言って、優雅な動作で蟲達を書物に封じる淡幽。
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「文字の海 溺れるように生きている娘が一人いる」
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足が治ったらというギンコの問いに「お前と旅がしたい」と答える淡幽。
この荒涼とした見慣れた土地ではない、文字の中でしか知らない世界へ。
それは、何時のことになるか分からない。いや、叶うことのない徒な望みなのかもしれない・・・けれど・・・
「いいぜ、それまで俺が生きていたらな」
何処にも居場所の無い男が、何処にも行くことが出来ない女に答える。
「生きるんだよ」
そう、薄墨に覆われたような世界に生きていても遠くに見える仄かな灯があれば、それに向かって歩いていけばいい。そうすれば、いつか・・・
「生きるんだよ」
ギンコにも、自分にも言い聞かすように淡幽はそう呟いた。
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というわけで、地上波最後の「蟲師」のレビューです。
ようやく見て、ようやくレビューが終わりました。
素晴らしいアニメーションで、堪能させていただきました。
蟲師のレビューをしてるといつもつい鼻歌まじりに歌ってしまう歌があります。(私はジャイアンなので人に聞かれたくないけど・・・)
それは山崎まさよしの「名前のない鳥」。
でんでろで~ん♪って暗い曲だけど、好きなんですよ。(山崎まさよしの暗い歌って好きだなぁ。「水のない水槽」なんて名曲だと思う。あぁ、なんてエロティックな歌詞だろう♪)
「なににすがった時に一つの旅は終わるんだろう。月は今日の夜もしんしんと照らしている。思うのはただ愛しい人の胸で眠りたい・・・」ってフレーズなどは、何度も口にしました。
といういうことで、蟲師のレビューは5月以降に再開すると思います。デジタル放送はなんとか見れるので・・・(しかし、どこが「ということで」ってなるんだ??)


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