不当な「いじめ」にはトコトン立ち向う。~その二~
「いじめられっ子」だった私にも問題は確かにあった。
のろまで、引っ込み思案で、弱虫の泣き虫で、本ばかり読んで上手く人とコミュニケーションのとれない子供だったからだ。
けれど、寄って集って殴られたり、ノートに「死ね」(ある意味デスノート?)だの「最低」だの書かれる筋合いは無かった。
Uはいつも先頭を切って私を殴っていたし、皆を扇動していたのも彼だった。
彼がいなかったら、あんなに惨めな思いをしなかったかもしれなかった。
そして、中学に入っても、Uが蛇のように嫌われているという噂をよく耳にした。
もう、卑怯ないじめに付き合うのは真っ平ごめんだったし、あんな下劣な輩から逃げるような真似は死んでも嫌だと思った。
「相手がやる気なら、受けてやろうじゃないか。皆が見てるリングに引き摺り出してやる。負け戦なんかするもんか。」
私はクラスメートの中にUの顔を見つけた時、腹を括っていた。
*****
さて、翌日。
教室に入ると、Uとその仲間がニヤニヤとしている。
見ると私の机が通路の真ん中に置かれてある。
あー、ハイハイ、なるほどねとそのまま席に着いた。
するとUは「バカ」だの「死ね」だの言いながら、益々私の机を通路に蹴り出した。(ホントにガキである)
私は逆らわず机と一緒に移動した。
ホームルームの時間が近づいてくると、Uは「オイ、机戻せよ。S(担任の事)にお前、殴られるぞ」と言い出した。
担任は男性教師で揉め事を面倒くさがり、すぐ体罰におよぶタイプだったので、生徒の間では人気は無かったが怖がられていた。
Uの言葉に耳を貸さず、そ知らぬ顔で同じところに座り続けた。
暫くして担任が教室に入ってると案の定、私の席を見て「何やってるんだっ!!」と怒鳴った。
「朝、登校したらU君がここに動かしてました。さっきまで、彼が『死ね』なんていいながら、蹴飛ばしていたから最初より、右に寄ってますけど。」と言って昨日、席を代わったYさんに「Yさん、そうでしょう?」と私は同意を求めた。彼女はしぶしぶ「そうです」と答えた。(後で巻き込んで悪かったと謝っておきましたけどね)
担任は「あー、もぉ分かったから。兎に角、机を戻せ」と私の机を動かそうとした。
私はすぐさま机を抱え込み、「U君が私にちゃんと謝罪して、自分の手でこの机を元に戻さない限り私は絶対にここから動きません。そうでないと筋が通りません。」と言い張った。
ここで担任に殴られても構わなかった。もし、殴られたらサッサと帰宅して、出るところに出てやると思った。(母も闘いたがってるしね~)
担任は根負けしたらしく、仕方ねぇなぁ~と言う感じでUに「G(私)に謝れ」と言った。
Uは唖然としていたが、小声で「すいません」と呟いた。
担任はこれで気が済んだだろうと言ったが私は気に入らなかった。
「彼の謝罪は口先だけです。私にちゃんと頭を下げて、自分の手で机を戻さない限り私はここから梃子でも動きません」と言った。
Uは目を丸くしたがクラスの連中が見てる中、私に深々と頭を下げ謝罪した。
数年前、教師の目の届かないところで散々殴り泣かしてきた相手に公衆の面前で頭を下げるのは、彼にとってなかなか屈辱的なことだったろうが、私はそれを狙っていたのだ。
相当口惜しかったらしくUは小声で「くそっ。後で殴ってやる」と性懲りも無く呟いた。
すかさず、私は
「先生、U君が後で『殴ってやる』なんて言ってます。私は何も悪いことをしていないのに。私は彼に今まで散々いじめられてきて親も彼に良い感情を持っていませんから、もし何もしていない私が殴られでもしたら学校に怒鳴り込んできて大騒ぎになると思います。先生もそのつもりでいて下さい。」と聞こえよがしに言った。(これを言うために予め母に承諾を得ておいたわけです)
「Uっ!!面倒を起こすな!!」と担任は一喝し、Uは不機嫌そうに口をつぐんだ。
ホームルームが終わり、担任が教室を出ると私はUに言った。
「これから言うことをちゃんと覚えておきなさいよ。
アンタが下らないチョッカイをかけてこなかったら、私は他のクラスの連中にたいするのと同じ態度でアンタに接する。
けど、もしアンタ達(Uとつるんでいる不良連中も傍にいたので、その連中を睨みながら)が、下劣ないじめを私に仕掛けてきたら全身全霊をかけてとことん付き合ってやる。
私はね、殴られるのなんて怖くないのよ。うちの母に殴られてるからね。(これは事実。母は武闘派ですからねぇ~。怒るとそりゃもぉハンパじゃなかった。)
もし、アンタ達の誰かが私を平手で殴ったら、筆箱で殴り返してやる。
ゲンコで殴ったら、椅子で殴ってやる。
それでも止めなかったら、アンタ達の名前を全部遺書に書き残して、手を出した誰かさんの家の前で頚動脈を切って自殺してやる。(今、思い出しても結構、大胆な事言ってるなぁ~。我ながらこれはムチャクチャですね。言いすぎ・・・)
ここを切るとね(と言って耳の後ろあたりをポンポン叩いて見せた)、血が物凄い勢いで飛び出すらしいから、辺り一面は血の海になるね。きっと。(ここらへんは夏目漱石の「心」で知った)ま、ほぼ即死らしいんで私はあんまり苦しまないし、派手な死に方だから結構な騒ぎになるね。
うちはいいんだよ。別に。なんて言ったって『被害者』だから。(とは到底思えない言い草)
でも、アンタ達はどうかな。高校受験、就職、結構響くんじゃぁない?もし、あの世ってのがあるならあの世から高みの見物をさせてもらうよ。ある意味楽しみだね。
いい、売られた喧嘩は買うからね。買ったからには全身全霊をかけて戦うからね。
仕掛けるなら、そのつもりで覚悟してきないさいよ」
・・・卒業までの2年間、私は平穏に暮らしました。
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と、まぁ・・・・随分とオーバーな事を言っていましたね。我ながら恥ずかしいな・・・でも、ホントに言ったんですけどね。やれやれ。
性悪Uと不良仲間が相手なんで、最初から派手にガツンと宣戦布告しようと思ったんですが今、思い返して見ると、我ながら如何なものかと思いますね・・・・。自分を守るためなんですが。
中二のくせに結構、えげつない事言ってるし。こういうのを恫喝するっていうんです。私のお腹の中は真っ黒で黒光りしているのでございます。
まぁ、最初のうちは小競り合いみたいなものもあって不良連中の一人が後ろから蹴ってきたり、足を引っ掛けようとしたりしてたので、その都度「何、コソコソやってるのよ!この卑怯者がっ!!正々堂々とかかってこい!」と怒鳴り、相手の机を蹴飛ばしたりしてましたね。最早、どっちが不良だか分かりゃしない有様でした。
女の子達は、Uだの不良連中だのが怖いから大抵、「お願い席を代わって」って言ってくるので、殆どU連中の近くに座る羽目になっていました。
最初はU連中と小競り合いを繰り返して来ましたが、「仕掛けてこなかったら、普通に接する」と断言してたので、Uが授業中答えに詰まると助け舟を出したり、忘れ物をしたら貸したりはしていました。本当は業腹だったんですが、断言しちゃったんだから仕方ない。私の沽券にかかわりますからね。
そうなると不思議なもので、U達も普通に「お前の父ちゃん、どんな車に乗ってるの?」などと普通に会話してくるし・・・私の受け答えがどうしても『怒気』を含んだものになってしまうのは抑えようがなかったんですけど、ちゃんと話すようにはなりました。
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人間は変われると私は思います。
確かに持って生まれたものは変わらないかもしれないけど、経験と知性を活用すれば持って生まれた本質の上に新しい自分を作り出すことが出来ると思います。
Uは私に「お前スゲー変わったなぁ。前は、すぐ泣いてバカだったくせに(ホント余計なお世話だよ)」とよく言っていました。
それに「今だって、正直バカだよ。バカだから、ちゃんと生きてくために変化してるんだ。生物はそうやって進化していったんだよ。アンタも下らないいじめなんてやめてちゃんと進化しろ。バカ」と答えていました。
「いじめを苦にして自殺」という記事を読むと、本当にやり切れません。
今だって、きっと辛い思いをしてる人がたくさんいると思います。
私が経験した事より、ずっとずっと辛い目にあってる人がたくさんいると思います。
でも、八方塞でどうしようもないと思っても、あきらめないでください。
自分の見方を変えてみたり、ちょっとだけ自分を変えてみたり、後ろめたい事(人に意地悪するとかそういったこと)がなければ堂々と前を向いて勇気を出してください。
自分自身も、自分を見る周囲の目も変わるかもしれない。
もし何かを変えることが出来たら、それはちゃんと自分の自信になるはずです。
そして何よりもあきらめないで下さい。
前フリが長く長くなったけど、夏休みが終わる前にどうしても言いたかった事はそれだけです。





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