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クライマーズ・ハイ

最初にお断りしておきますが、ネタバレがありますのでこれからドラマ、映画をご覧になる方、及び原作を読まれる方はここからは読まないでください。
ネタバレがあっても平気な方はどうぞ。

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「あれは存外、恐ろしいものですよ。クライマーズ・ハイが解けた瞬間、恐怖が一斉に襲ってくる」

クライマーズ・ハイ それは登山中、興奮が極限まで達し恐怖が麻痺すること

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1985年8月12日
群馬県の地方新聞「北関東新聞社」の遊軍記者:悠木は社会部の佐山からこんな言葉を小耳に挟んだと聞かされる

「ジャンボが消えた」

その日、悠木は販売部の安西と衝立岩へのアタックを予定していた。
安西との約束の時間が迫り、退社しようとしたその時に飛び込んできた大ニュース

日航機が群馬・長野山中の県境に墜落した 乗客524人
世界最大級の単独航空機事故

もし、現場が群馬の山中なら地元で起きた大事件となる
社内が騒然となる中、悠木は日航機事故の全権を任されることになった

1985年の夏

記者達の興奮と苦闘の一週間が始まる

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「俺を現場に行かせて下さい!!」

この頃は当然、ノートパソコンも携帯(もっともあの山の中で携帯が使えるとは思えないけど)も無く無線を使うしかないといった状況。
そのうえ北関東新聞社は無線を用意していなかった。

耳に挟んだ不確定な情報と自身の勘と頭上のヘリの動きを頼りに山中をボロボロになりがら現場を目指す佐山と神沢の姿が凄まじい。

新聞社の中の張り詰めた緊張感が怖いくらいだ
未だ現場が確定しないうえ、朝刊の締め切りが刻一刻と迫る。
日航機が堕ちたのは、長野なのか?群馬なのか?(見ている側は墜落現場を知っているけど、俳優さんたちの熱演でこっちまでピリピリする)
堕ちた場所で新聞一面の見出しが変る。
日航全権を任された悠木は決断に迫られる・・・・
そして、佐山からの報告もまだ来ない・・・・

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全身泥まみれ傷だらけでボロボロになった佐山と神沢の姿にどれだけ現場に行って戻ってくるのがたいへんだったか想像がつく(あの山の中ですからね、しかもあんな薄着のまま山に入ったらボロボロになります)。
しかも先に書いたように携帯やノートパソコンの無い時代、原稿を送るのも事故現場から一番近い公衆電話から口頭で原稿を読むのが一番早い方法。

悠木じゃなくても、そんな佐山に「入稿が間に合わなかった」などとはとても言えない。
たとえ後でどんなに詰られようとも・・・・
百分の一でも可能性があるなら佐山の記事を載せたかったのに、その僅かな可能性を潰した社会部長の等々力(いつも思うけど岸部さん、こういう役が凄く上手いですね)に怒りが爆発するのだが、この場面は本当に迫真の演技だと思う。

「(東京の大手の新聞社に)勝ったなんて、あんた達の幻想だ!俺たちは一度だって勝ったことなんて無い!!」

吐き捨てるような悠木の言葉は等々力に向かってだけでは無く、何より自分自身に向けたものだと分かるから辛い

部下の新人記者を事故で亡くした過去があり、プライベートでは仕事の忙しさに負けコミュニケーションがとれず自分に心を閉ざす息子にどう接していいのか分からない。
そして、一緒に衝立岩に登ろうと約束した安西が自分を待っている間に倒れ昏睡状態に陥っている・・・・

それなのに、負け続けている自分がいる・・・・

そこへ神沢からとんでもない情報を聞かされる。それはまだどの新聞社も掴んでいない「日航機の事故原因」だった

*****

「どうしてこんな事故が起きたのか知りたいんです・・・・どうか本当の事を書いてくださいね」

と悠木に語りかける遺族の言葉が辛い。身を切られるように辛い。
身近な者を失った時に知りたいのは、誇張された言葉や同情ではなく「どうしてこんな事が起きたのか・・・なぜ、あの人が死ななくてはならなかったのか?」という真実だと思う。

本当に知りたいのは事実

だが、純然たる「真実」を伝えるのはとても難しいことだと思う。
人が伝えることにその人の主観が存在するからだ。

私はこの作品に望月彩子がいなくてもいいのではないかと思っていた。
彩子の気持ちは理解できるが、正直言ってジャーナリズムを専攻しているはずの大学生なのに彼女の行動は幼く利己的だと思ったからだ(まぁ、今も思っているが)。
そして、彩子の要求にたいしてとった悠木の行動も納得出来ない。

が、この二人の言動が「怖い」という言葉を引き出すためのものであるなら頷けるところがある。

不特定多数の人間が目にするものに自分の意見や考え記事といったものを載せることは非常に恐ろしいことだと私も考えているからだ。

誰一人傷つけず、不愉快な気持ちにせずなにかを伝えることは難しい。
自分が正しいと思うこと、これが真実だと思うことが必ずしも全ての人にとって正しく真実であるか分からない。考えや立場が変れば全く別の側面を見る人もいるからだ。
だからこそ、報道に携わる人はその恐ろしさを肝に銘じなくてはならない。
より正しく公平な真実を伝えるために。
そして、自分の言葉に覚悟を持たなくてはならない。
それが報道に携わる人の「職業道徳」なのだから。

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この作品の後半がトーンダウンしたような感じがしたのだが、それは前半の緊張感と高揚感が凄まじかったのでそれは仕方ないことかもしれない。(むしろ、前半が凄すぎたのだと思う)
もし、前後半を一気に見たらそんな事は思わなかったかもしれない。
出演陣は非常に豪華で、主役の佐藤浩市を筆頭に見事な演技だったと思う。素晴らしいとしかいいようがない熱演だった。(そういえば、「ハゲタカ」に出演していた人も多かったですね。大森南朋も佐山役で出てたけど、この人は本当に見事に化けるな~と思った)

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あの夏から20年後。

悠木は今は亡き友人との約束を果たすために、衝立岩に登る。
彼と同行するのは安西の忘れ形見の燐太郎だ。
父親としても記者としても息子に認められなった悠木。
彼が何百人もの命を奪ってきた衝立岩で手にしたものはなんだったのか・・・・

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