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マルセルの夏/マルセルのお城

マルセルの夏

「二人は永遠に愛する私の父と母だ」

1900年、マルセルは南フランスのオーバーニュで教師である父とお針子だった母の間に生まれた。
父は教師で、共和主義者。思想はリベラルだが、厳格で頼もしい人物。
美しく優しい母はいつまでも少女のよう。
マルセルにとって父はどんなに時が経とうが“いつまでも25年の隔たり”がある相手だが、母は“一緒に生まれた”と思えるような存在。

やがて弟が生まれ、次に妹が生まれた。
マルセルが9歳になった夏、病弱な母のためにマルセル一家と叔父一家はバカンスのためにプロヴァンスの小高い丘にある別荘にやってきた。
そのバカンスはマルセルの人生においてもっとも美しい思い出になった。

原題は「父の栄光」。
この映画はマルセルの家族に対する・・・特に父ジョゼフに対する敬慕の念を描いている。

生まれたときからずっと教師である父の姿を見ていたマルセルにとって、ジョゼフはまさに全能の存在だった。

けれど、そんな父にも人並みの虚栄心があり(ジョゼフは常日頃“虚栄心”は悪徳であると言っていた)、完璧な人間ではなかったとマルセルが知ったのもこのバカンスでだった。
父にたいする憧れと尊敬、失望を感じながら今まで分からなかった父の人間的なところも好ましいと思うようになったマルセルはこの夏少し大人になったのだろう。

*****

描写が非常に丁寧で美しい物語だ。
愛情溢れる優しい両親に育てられている子供の目から見た世界はこんなに輝いて見えるのだろうか?

そして、登場人物達も主人公のマルセルは勿論、全員が実に生き生きと描かれている。
生意気で利発な弟ポール、おおらかで気前の良いジュールおじさん、いつもやさしいローズおばさん、純朴なマルセルの友達リリ・・・

特に父と母の描かれかたが素敵だ。

マルセルから見れば父は“完璧な人物”でも、本当は栄転した学校で額に冷や汗をかくほど緊張して授業をしていたり、理想主義のあまり他人に対してちょっぴり批判的なことを言ったりするけれどそれがマイナスになるどころかかえって“愛すべき人物”に見えてくる。

そして、母オーギュスティーヌ。
教養こそないけれど、優しく美しく賢くどこか儚げな母。
「母が15歳の少女のように幼く見えた」
靴を履き替え駆け出す姿、泉で喉を潤す美しい横顔・・・
マルセルの目を通して女性の持つ美しさと優しさと強さを見る事が出来る。

そして描かれるエピソードがどれも愛しい。
フランス映画らしいエスプリとユーモアが随所に見られる。

父がペタンクで見事な腕前をみせたこと、ポールとたくさん蝉を捕まえたこと。父と叔父の猟についていったこと、地元っ子のリリと友達になったこと・・・・

どこか懐かしい写真を一枚一枚丁寧に見ているような感覚になる。

いつしかバカンスは終わる。

雨が涙のようにマルセルの頬を濡らしたけれど、たくさんの忘れられない思い出を持つ事が出来た。

マルセルの“Belle Époque〜良き時代〜”はまだ終わらない。

+++++++++

マルセルのお城

「イチジク、アーモンド、ハシバミ、干しぶどう、リンゴ、プラム、クルミ、なし・・これで8つ。ミカン、メロン、白いヌガー、黒いヌガー。・・・あと、ひとつ・・・ブリオッシュのケーキ!」
オーギュスティーヌが食卓にかけられた布をサッと翻すと、クリスマスの御馳走があらわれた。
ほら、素敵でしょう?と花のように微笑む母オーギュスティーヌ。

忘れることの出来ない大切で美しい思い出がまた増えた。

*****

夏休みが終わっても別荘での生活が忘れられないマルセルのために、母が素敵な提案をしてくれた。
クリスマス休暇はあの丘の別荘で過ごしましょうと。

もう蝉は鳴いていないけれど、仲良しのリリがマルセル達を待っていてくれた。
そして気前の良いジュールおじさんがプレゼントをたくさん持って来てくれる。
「ミサでみなの幸福を祈ってきた」というおじさんに、反教会主義の父ジョゼフもこの時ばかりは感謝の抱擁をかわす。

夢のように楽しい丘の別荘での生活。
ここでの暮らしが大好きな子供達のためにオーギュスティーヌは「毎週末別荘で過ごしましょう」と提案する。ジョゼフは渋るけれど、“陰謀の天才”(この時の母の陰謀がとっても可愛らしい)オーギュスティーヌにかかっては、父も白旗をあげるしかなかった。
かくして一家は、毎週末丘の別荘で過ごす事になったけれど片道4時間も歩いて別荘に行くのは辛い。
するとジョゼフの教え子だったブジークが一計を案じてくれる。でも、それは運河に沿って3つのお城を抜けていくというもの。そのお城に言いようの無い恐怖を母は抱いていた。

*****

前回は父ジョゼフが主に描かれていたけれど、今回は母オーギュスティーヌのエピソードとマルセルの初恋が描かれる。

「彼女は両手でピアノが弾けるんだ!!」(あー、庶民はセーゼー指一本で「猫ふんじゃった」だもんね。こーゆー奴には“のだめ”でも与えとけぃ!)

このマルセルの初恋の相手なのだが・・・あんな素敵なお母さんがいるのにどうしてこんな娘に恋するんでしょう?と笑って小首を傾げてしまうのですが。
だって、マルセルの初恋相手のイザベルの“女王さま”っぷりが凄くて(笑)。
恋は盲目と云うけれど弟ポールも兄の“下僕”っぷりに呆れ親友のリリとの友情にもヒビが入りそうになる。
それでも恋から醒めて、恋に破れたマルセルは去っていくイザベルを見て
「行っちゃった・・・」
と泣く。
それを「泣くなよ」と云って慰めるリリ。(良い奴だよリリ)

イザベルには女性の手強さを、母には女性の美しさ優しさを教えられたマルセルはまたひとつ大人になった。

そんなマルセルだったが、念願だった奨学生試験に好成績で受かった。
リセに行けなかった父は誇らしさと寂しさの入り交じった表情でマルセルに告げる。
「いつかお前は私を恥だとおもうだろう」と。

親の後をおぼつかない足どりでついてきた子供がいつしか親に追いつき、肩を並べそして追い越していく。 その誇らしさと寂しさがジョゼフの言葉に滲む。

奨学生試験がすめば待ちに待った夏のバカンス。
丘の別荘で過ごすために一家はいつものようにお城を通り抜けていく。

母が死ぬほど怯えるあのお城の抜け道を・・・・

*****

「時は巡る。水車のように人生の輪は巡る。」

美しい良き時代は夢のように過ぎ去ってしまった。
愛すべき登場人物達のその後があまりに簡単に素っ気なく語られるが「なぜ?」「どうして?」と画面に向かって問いかけるのは無意味だと気づく。

そう、それは一作目から父ジョゼフが学校で子供達に語った言葉にからなんとなく予感されていたことだから。

・・・20世紀は素晴らしい時代になる。誰もが社会的な地位を得て尊敬される。あらゆる可能性が未来に向かって開けていくと・・・
   その先を、ジョセフの語る未来を“過去のもの”として知っているものにとってこれは辛い言葉。そして、我々は成長したマルセルと共に“Belle Époque〜良き時代〜”の思い出を夢に見ているだけだと気づいていたはず。・・・その後訪れる1920年代(Les Années Folles 狂乱の時代)、戦火の嵐・・・に心の奥底で怯えながら。
とうの昔に薔薇色の未来を夢見た良き時代は終わっていたのだから。

さらに時は巡る。

成功した40代のマルセルは驚くべき事実を知った。
この時、彼の胸にはかけがえの無い大切なもの達への哀惜の念が溢れて来たのではないだろうか。

時の流れはなんと残酷なのだろう・・・・
遠ざかれば遠ざかるほど愛おしい思い出は鮮やかになり、どんなに望んでも二度と得る事の出来ないかけがえのないものをこんなに美しく描き出すのだから。

・・・・時の扉の向こうには、赤いバラを抱え不安げに佇む少女のような女性が立っている。その姿が永遠に損なわれることはない・・・・

*****

少年の輝くような思い出をノスタルジックに描いた佳作。
シンプルな映画ながら、美しい言葉で語られるナレーションも暖かい眼差しも全てが好ましい作品です。 

とても大切な映画のひとつです。

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