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チェ 〜39歳別れの手紙〜

エルネスト・チェ・ゲバラ 最後の341日。

ボリビアに潜入したが、現地の共産党の支持とサポートを受ける事が出来ず、住民達の協力を得ることも出来ず、アメリカの全面的支援のもとに対ゲリラ特殊部隊を組織した政府軍により部隊を分断され、ひたすら追いつめられていくゲバラ達。

ゲリラ部隊から脱走し政府軍に情報を漏らす者、食料や医療品の不足、現地の住民達の密告・・・
ゲバラ率いるゲリラ部隊が孤立無援に陥っていく様子が淡々と描かれていく。

私は共産主義的な思想があるわけではないし、何かに特別傾倒するような考えを持つ気はない。
けれど、見てみたかった。
極限の状態で人は自分の信念に対してどれだけ真摯でいられるかを。

仲間が次々と減り、目の前で傷つき死んでいく。
惨憺たる現状は兵の士気を奪い、戦う意義を見失わせてしまう。
ゲバラ自身も激しい喘息の発作に苦しみながら進んでいく。
その姿は壮絶だ。

ソダーバーグ監督が描き出すゲバラは“英雄”と程遠い。
だからこそ、“人間”チェ・ゲバラを浮き彫りにしているように思う。
過酷な現実に苦しみ絶望を感じながらも、理想と信念を決して手放さなかった、その葛藤する姿は身に沁みる。

前作「28歳の革命」では、傍観者のように見ていたが、この葛藤を抱えたゲバラの姿はまるで供に旅をしているように思えた。

無知な私はキューバ革命やカストロ、ゲバラについて一通りのことしか知らないが、現在のキューバがアメリカの封じ込め政策やソ連の崩壊その他の様々な要因により、多くの問題を抱えていることは知っている。
“皆が平等に”という謳い文句は絵に描いた餅で、どんなに理想を掲げていてもそこに人が関わる限り矛盾や歪みを抱えてしまうものだ。
そんな事は私なんぞに言われなくとも誰もが思う事だし、ゲバラのような知性の高い人間ならなおさらそう考えたはずだ。
それでも彼は南米から“人が人を搾取する”ことを無くしたかったのだろう。

捕らえられ処刑を待つばかりになったゲバラと見張りの若い兵士の会話が非常に印象的だ。
神を信じるか?と問いかける兵士にゲバラは

「私は人間を信じる」

と答える。

志が潰え、死を前にして私はそんなことは言えない。
思想が違おうとも、志半ばで潰えようとも、自分の信念に対してどこまでも忠実で人として純粋なその在り方に敬意を払わずにはいられなかった。

映画としてエンターテイメント性やカタルシスがあるとは言い難いし、誰にでも勧められる映画とは言えないが、私は非常に面白く見た。
正直、一作目の「28歳の革命」はやや退屈だったが、「別れの手紙」は“人間”チェ・ゲバラが見れて興味深かった。
ソダーバーグ監督の作品とは相性があまりよくないのだが。

タイトルロールを演じるデル・トロも素晴らしく、優れた役者ぶりを見せてもらえて良かった。
見事な熱演だったので、やはり国連での演説は細切れでなく通しで見たかったなと思う。
残念だ。

理想と信念を最後まで貫いたゲバラは死して20世紀最大のカリスマとなった。
カストロにとってその絶対的な偶像を得たことは幸運なことだったろう。
政治的、経済的に困難を極めれば極めるほど、この絶対的な偶像は必要だったはずだから。

                                        

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