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日出処の天子

先に申し上げておきますが、私がこの作品を最後に読んだのは二十年くらい前でそれから一度も読み返していません(実家に行けばこの漫画があるはず)。
また、人様のレビューを読んで影響されてはいけないと考えて殆ど作品に関しての情報に目を通していないので、思い違いや記憶違いがあると思いますがご容赦下さい。

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山岸凉子の「日出処の天子」の連載を途中からリアルタイムで読んでいたが、主人公の厩戸はホモだし(男同士のラブシーンなんざぁ〜見たくもないし、今でもかなり嫌である)性格が悪くて「あー、こんな奴大嫌い」と常々思っていて好きな作品ではなかった。

友達の中には「ウマ(厩戸王子のこと)最高♡」と云って憚らない人がいたが、全く理解できなかったし、今もハッキリ言って嫌いだ。

ただ、物語自体は不思議に面白く「ウマ、最低」とブーブー文句を云いながらも読み続けていた。

やがて物語が終盤に差し掛かる頃には
「これはどうやって終わるのだろうか?」
と気になり、かなり真面目に読んでいた。
そして最終回を読み終えて呆然とした。

「皮肉な怖い話なんだろう」
と。

今も“成熟した大人”とは云い難いが、その頃は本当にガキだったので「怖い」と感じてもそれがどんな怖さかよく分からなかった。

連載が終わって何年かしてから「日出処の天子」の豪華版が出たのを機に初めて全部通して読んだ。
そして、改めて「皮肉な怖い話」だと思った。

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ここで描かれる厩戸王子は天才で超能力らしきものを持っており、それ故に孤独だ。
厩戸の孤独の大元は、母親との関係である。

彼の母は厩戸の“力”が自分から受け継いだものと分かっているにもかかわらず(分かっているからこそかもしれないが)、厩戸を恐れている。
他の兄弟は母から溢れんばかりの愛情を受けているのに、厩戸が母から得たのは自分に対する恐怖ばかり。彼が母を・・・女性を憎むのは仕方の無いことではある。

母親の愛情さえ受ける事が出来なかった厩戸が孤独から逃れるために得ようとしたのが蘇我毛人だった。

毛人は厩戸と同じ“力”を持っているのだがその“力”に全く気付いていない。
そして、厩戸の不思議な“力”を目にしても毛人は多少恐怖を感じても厩戸を恐れ嫌悪しない。
しかも、毛人自身気付いていないが厩戸と同質の力を持っている。

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「日出処の天子」は厩戸王子が孤独から逃れるために蘇我毛人の愛情を得ようとあらゆる手段を尽くすが、結局どこにも出口の無い孤独に陥ってしまう物語だ。

物語の終わり近くで愛を乞う厩戸に毛人はこのような事を云う。
「貴方は私を愛していると云いながら本当は自分自身を愛しているのです。そこから抜け出さない限り孤独から逃れることは出来ない」
と。

毛人の云うように厩戸の求めるものは人が対等に愛し合うといったものではなく一方的な、子供が親の愛を求めるようなものだ。

毛人のような人間が対等でない愛情に応えられないと告げるのは当然だ。
厩戸の願いが切実であればあるほど、真摯な気持ちでそう伝えるだろう。
それが相手をどうしようもない孤独に落とすことになると分かっていても偽ることは出来ない。

厩戸は毛人の愛を得ることが出来ず孤独の道を歩む事となる。
それは毛人の云う“黄泉に似た道”で、厩戸とその道を供にするのは厩戸の母の面影を持つ白痴の少女だ。

厩戸の妻たちは彼の孤独と虚しさにつき合わされ、妻として女として・・・人としてまともに扱われることはないだろう。(ただ刀自古とはなんらかのまともな関係を築ける予感があったのだが、厩戸はその機会を自ら潰してしまった。彼はまぎれも無く天才だが、まともに愛されたことがないためか人として未熟である。)

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そして、この物語の中で孤独なのは厩戸だけではない。
ごくごく僅かな例外を除いて登場人物たちは権力や物欲・・・さまざまな欲望を満たすために行動し、自分たちが孤独であるという自覚すら無い。

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厩戸は摂政となり政治的な実権を手にし、しかも彼は不可能を可能にするような“力”まで持っている。その彼が随の皇帝に手紙を書く。

日出処の天子、書を日没処の天子にいたす。つつがなきや・・・・と。

そこで物語は終わる。

なんと皮肉で恐ろしい終わり方だろう。

自分の子供達が将来非業の死を遂げる事も、政権争いで多くの命が失われる事も、隋との貿易の中でたくさんの命が波間に消えることも予見しながら、悲しみも嘆きも絶望さえも乾ききった孤独の中で厩戸はこの手紙を書いたのだから。

あらゆるものあらゆる力を手にしながら、黄泉に似た孤独な道を進むしかない厩戸。

山岸凉子の描いた皮肉で無惨なラストに言葉を失い、同時にゾッとした。

これは他人事ではない?自分の周りは、自分自身はどうだろう?と思ったからだ。

*****

「日出処の天子」と同じくらい、恐ろしい作品と云えば岡崎京子の「ヘルタースケルター」がありますが、lこれは友人から借りて一度だけ読んだ作品だし(ヘナチョコなので読み返すのが辛かった)、未完だというので“タイガー・リリィ”の話はまたいつか別に機会に。

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