《注意》
ネタバレがありますので、これからご覧になる方は以下の文章を読まないで下さい。
物語はシンプルだ。
捕らえた強盗団のボスを目的地まで護送し、刑務所のあるユマ行き3時10分発の列車に乗せようとするまでの話である。
が、実に面白い
目的地に着くまでアパッチ族の襲撃や捕らえた強盗団のボス:ウェイドに恨みを持つ民警団のボールズ、そして常にウェイドを取り戻そうとする強盗団が障害となって立ち塞がる。
が、護送団にとってなによりも手強いのは自分たちが捕らえた強盗団のボスであるウェイドであろう。
“神の手”と評される早撃ちの技を持つウェイドは、冷静かつ大胆で頭脳明晰。冷酷だが人間的な奥深さを感じさせる魅力的な人物である。ちなみに時間があればいつも鉛筆でスケッチを楽しむ男。
ウェイドは聖書の言葉を引き合いにだしながら(勿論、彼は神など信じてはいない)、正義を語る者の矛盾をつき、挑発し、時に取引を持ちかけながら腕力と頭脳を駆使し隙があればいつでも逃亡しようしている。油断も隙もないあったものではない。
いつ何処で誰が死ぬのだろうかと思うと一瞬たりとて目が離せないのだ。
そして、この護衛団にはダンと言う南北戦争で片足を失った農夫がいる。
ダンは彼の一家の土地を奪おうとする悪辣な地主の嫌がらせを受け、借金を抱え、妻の信頼も息子の尊敬も失いかけた男である。
彼は200ドルの報酬のためにこの護衛団に加わる事にしたのだ。
多くの困難を伴う旅の間に、凶暴さと細やかな心を持つウェイドとひたすら誠実であろうとするダンの間に何かしら共感しあうものが生まれていく。
そこに、もう一つダンとダンの息子ウィリアムの親子関係が絡んでくる。
護衛団を追ってきた、大胆で利発な14歳のウィリアムから見たらダンは不甲斐無い父にしか見えず、悪党と分かっていても魅力的なウェイドに憧れに似た感情を抱くのは理解出来る。
けれど、息子の冷ややかな目線を受けながらも弁解もせず愚直なまでの誠実さを貫こうとするダンの姿に胸を痛めずにはいられない。
借金も地主に頭を下げる不甲斐無い姿も全て家族のため、仕方の無いことなのに。
物事をまだ深く理解しない若者の傲慢さというのはなんと残酷なことか・・・・。
そう、ダンがこの護衛団に加わったのは200ドルという金のためだけではない。
一番の目的は失われつつある父親の尊厳と信頼を命がけで取り戻すためだ。
多くの犠牲を払いようやく辿り着いた目的地。
あとは3時10分発の列車の到着を待つばかりだが、ウェイドを取り戻すため追ってきたウェイドの部下が護衛団の首に多額の賞金を賭けたことによりダン達は窮地に陥ることになる。
町の群衆が金のためにこぞって襲って来るという地獄。
命が惜しい保安官達もダン達を見捨てて立ち去った。
残ったのはダンひとり。
「見ろあいつらは皆ケダモノだ。もう充分だろう!金もやる、お前の命も保証する!オレを逃がせ!!」
この言葉にダンは首を縦には振らない。
「息子達に誇れるものが何一つない」
呻くようにダンが口にした言葉に涙した。
首を縦に振る事はできない。
良心を失わず、全身全霊をかけ使命を果たしたい。
それが自分の身の丈に合わない困難なことであっても。
たとえ死ぬ事になろうとも。
家族に誇れる自分でありたい。
誰よりも自分を不甲斐無く情けなく思っていたのはダン自身なのだ
ダンの言葉に「わかった」と答えるウェイド。
旅の間にダンの真のこころを見ていたウェイド。親に捨てられ一人で生きてきた彼は守るべき家族のために、“誇り”のために最後まで指名を果たそうするダンに心動かされたのだ。
“お約束”と言えば“お約束”だがウェイドがダンの心に応え共に駅に向かう姿に胸が熱くなる。
駅に向かうまで容赦無く降り注ぐ銃弾。
父に諭され身を隠していたウィリアムも堪らず父を救うために飛び出してきた。
ウィリアムの目に映る父は生活に疲れた不甲斐無い父ではない。
命がけで困難に立ち向かう敬愛すべき存在になっていた。
ウィリアムの働きもあり、なんとか駅に辿り着きユマ行きの列車に乗り込むばかりなった瞬間、ウェイドの部下チャールズの銃が火をふく。
ウェイドとウィリアムの目の前で血まみれになり倒れるダン。
この瞬間、たとえ自分を助けだそうとした部下であってもウェイドはチャールズ達に必ず銃を向けるだろうと思った。
いまは良くても、仲間であろうと容赦しないウェイドが見せたダンに対する“甘さ”は後々彼にとって命取りになるはずだ。それはこのケダモノ(強盗団)の中に不穏な種を残すことになる。
甘さや優しさを見せる事はボスであるウェイドの立場を揺るがす。だから、ここで仲間をきるしかないはず。生きることに長けた頭の切れるこの男ならそう考えるはずだ。
そして自分たちの邪魔をしたウィリアムをチャールズ達がそのまま許すはずは無いと分かっているからウェイドは必ずチャールズ達に銃を向けるはず。
腹心の部下をその手で殺めることで心を痛め様々な葛藤を抱えることになったとしても。
自分が生き残るために、何よりもダンが守ろうとした家族のために。命を賭けてまで守ろうとしたダンの誇りと意地のために。
命と引き換えに、息子に人として誇りを見せたダンの姿を見届けると、ウェイドは自ら列車に乗り込む。
向かうは刑務所のあるユマ。
ウェイドはここで刑務所に入れられ絞首刑を言い渡されるだろう。
けれど、このしたたかな男がみすみす死にに行くはずはない。
ダンの心意気に応え列車に乗ったが、それ以降の事はまた別の話なのだから。
ユマへ向かう列車が走り出した時、ウェイドが口笛を吹いた。
その姿を見て
「やっぱりね」
と思いながら肩をすくめてしまった。
まったく、敵わないよ。
******
見る前に「二時間以上あるのか〜」と少し心配していたのですが、あっと言う間の二時間でした。
面白かった。
大満足です
ウェイドとダンの二人を軸にした物語にもう一つダンとウィリアム親子を軸にした物語を絡めたのは良かったですね。
利害よりも命よりも“人としての誇り”を命をかけて子供に伝えようしたダンの生き様が心に沁みました。
いや、良かったです。
秀作でした。私にとってはね。
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