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海の沈黙

登場人物である“伯父”のナレーションによって物語は語られる。

1941年ナチス・ドイツ占領下のフランスのある村の一軒家で年配の伯父と、その姪が暮らしていた。
その家の空き部屋を借りるためにやって来た一人のドイツ軍将校。
伯父と姪は敵国の将校に対して“沈黙をすること”によって、抵抗の意志を示す。
その態度に将校が腹を立てるかと思いきや
「私は祖国を愛する人を尊敬しています」
と穏やかに語るのだった。

それから毎晩同じ時間に将校は伯父と姪の前に現れるようになる。
それに対して伯父と姪はただ“沈黙”で迎えるのだった・・・・

毎晩姿を現すこのドイツ人将校は元々作曲家で自分がいかにフランスの文化や芸術を愛しているかを語り、そしてドイツとフランスが融合すればお互いの国がもっと素晴らしい発展を遂げると言うのだ。
だが、占領されている側の伯父と姪は“そこに誰も存在すらしていない”かのように完全に彼を無視し続ける。
それでも彼は毎晩姿を現してはフランスの優れた文学、ドイツの音楽、シャルトル大聖堂を攻撃したこと、元フィアンセと破談になったことなどを語り、ひたすらドイツとフランスの融合を願っていることを熱に浮かされたように語る。
それはまるで目の前にいる二人に自分を受け入れて貰いたいと言うように。

この将校は純粋で繊細な人間だと思うが、フランス(の文化)に恋いこがれる独り善がりな人物でもある。最もやっかいだなと思うのが無垢で無邪気な人間の悪気の無さだと常々思っているがこの将校はこのタイプだなと見ながら困ってしまった。

だから将校の独白を聞いている伯父と姪が“彼を完全に存在を無視する”ことに対して、居心地の悪さを感じていることもよく分かる。
だが、決して伯父も姪も“沈黙”を破る事はしない。
彼個人に対する思いと国を踏みにじる“占領”に対する思いは別だからだ。

それにしても登場人物がほぼ三人しかいないうえに、台詞らしい台詞というのが将校の独白と伯父のナレーションだけなのがかえって息苦しい緊張感を作り出しているなと感心した。
独白と沈黙でかなり精神的に消耗させたれた感があり、この“沈黙”がいつどのように破られるのかと思っていたが・・・・

憧れのパリへの旅行を許された将校は二週間後に戻って来てから、伯父と姪の元に姿を現さなくなった。不審に思いながらも相変わらず将校がどこにも存在しないかのように振る舞う二人。

そしてある晩、将校が現れ彼がパリで経験した事を語り出した。
絶望と失望に打ちひしがれ、転属願いを出し明日前線へ立つことになった語る。

「ナチスドイツは太陽にはなりえない」

彼の願った“フランスとドイツの幸福な結婚”などは戦争によって生まれはしないのだと。

いつもと同じ態度をとる二人だったが、“沈黙”は一度だけ破られることになる。
それは、二人がしっかり将校に対して人として向かい合う事でもあるがその言葉は皮肉で辛い。

「 Adieu さようなら」

この映画の“沈黙”を破ったのは姪のたった一言だけだった。
Au revoirではなく永の別れの時に使う言葉。

伯父は将校に対して言葉を口にする事はせずだた黙って前線へ立つ彼にアナトール・フランスの言葉を贈った。
それを目にしても、将校は沈黙を守るだけで旅立ってゆく。

将校がいたことも一度も口にすることなく、最初からそんな存在など居なかったかのように日常に戻る伯父と姪。

白く朝を彩る太陽の光が哀しい。

このラストはただただ虚しい。

*****
と、無駄の無い、昔のフランス映画らしい抑制の効いた寒々とした重い映画でした。
ヨーロッパの昔の映画はこういった秀作が多いですね。
面白かったけど、終わった途端疲れが(笑)
人やお金をかけなくても脚本と監督が良ければスリリングな映画は撮れるんですよね。
本当に。

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