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ぼくのエリ〜200歳の少女〜

「入っても良いと言って」
「どうぞ」

*****

氷と闇で閉ざされた街。
街灯の灯りを受けて小さな光を放ちながら粉雪が舞落ちる。
身の内が凍えるほど寂しく恐ろしいのに、とても美しいと思った。

*****

凍てつく林で逆さに吊られ血を抜き取られた死体が発見された。
そんな恐ろしい事件が起きた頃に12歳のいじめられっ子のオスカーが出会ったのは、不思議な少女エリ。
彼女は12歳から歳をとらないヴァンパイアだった。

オスカーがエリと初めて出会ったのは夜の公園。
彼女はまるで鳥のようにジャングルジムの上に立っていた。
降り積もった雪、暗闇と寒さに封じ込まれたようなアパートメント、その中にひっそりと存在する人気の無い公園。
いじめられっ子の少年と孤高のバンパイアの少女の孤独が伝わって来る美しい場面だと思った。

主人公ふたりが素晴らしい

オスカーは金髪碧眼のいかにも北欧の少年と言った感じで弱さと繊細さを感じさせる容姿をしている。
全身“白”といったイメージ。
オスカーの家庭は両親が離婚し母と二人暮らし。学校で三人のいじめっ子に執拗ないじめを受けても母親にはその事を隠し、母も息子にあまり関心が無い様子(生活に追われているのだろうか?)。
学校にも家にも居場所が無く、彼の孤独と悲しみが雪のように心に降り積もっていくような気がした。

そして、驚いたのがエリのアドバイスに従っていじめっ子を撃退した後のオスカー。
ひどく変わったわけではないが、いじめっ子を撃退した後の言動が“いっぱしの男”になっていたのである。
エリに恋をした事、勇気を持つ事で得た自信が彼を“気弱な男の子”から“男”に変えたのだろう。
その微妙な変化を巧みに演じていて上手いなと感心した。

ヴァンパイアのエリは黒髪で印象的な大きな瞳を持つ少女である。
彼女は“美少女”と言っても良いのだろうが、美しさと同時に醜さが混在する不思議な少女なのだ。
非常に美しく見える瞬間もあるし、酷く醜く見える瞬間もある。
それと同時に少女のようでもあるし、老婆のようでもある。

矛盾するものを身に纏った彼女の存在は恐ろしいが魅力的だ。
もしエリが非の打ち所の無い美少女だったらどうだっただろうか?例えば「プリティ・ベビー」のブルック・シールズのような。
それはそれで魅力的で美しいだろうとは思うが、ここまで恐ろしい存在にはならなかったと思う。

「他人を殺しても自分が生き残りたいと思わなかった?」
とオスカーに問うエリもそう問われるオスカーも12歳。
まだ“人”として未完成で、新春期の入り口に差し掛かった不安定な年頃であることがこの物語を危うくスリリングなものに仕立てている。

エリが12歳の少女のヴァンパイアだから、彼女は人の形をした別の生き物として何の葛藤も無く人の血を貪るのだろう。ごくごく当たり前に“食事”を摂るように。
彼女がもう少し大人だったらまた事情は違っていたかもしれない。

一方、オスカーもほとんど葛藤することなくエリを受け入れる。
彼にとってエリは孤独な自分を救い出してくれた初恋の少女以外の何者でもない。
彼がもう少し成長してたら人を喰らうヴァンパイアである少女に惹かれていることに対し葛藤が生じると思うが、今の彼にそれはない。未知の存在に対する恐れが多少あるものの、良くも悪くもありのまま受け入れることが出来る子供だからだろう。
人を殺し喰らうことに対する罪悪感や恐怖が大人に比べてこの二人はとても低い。

そして、ふたりの関係が非常にエロティックに見える。
彼等の間にハッキリとした“性的なもの”はない(エリが人間では無いというのもあるが)。
が、思春期の入り口に差し掛かっているので“性的なもの”に対する関心が存在しないわけではない。
だが、それ以上踏み込む事は無い(これが14歳くらいになるとまた事情が変わってくると思う)。
そのあやふやさがエロティックな雰囲気を醸し出している。

居場所の無い少年と居場所を持つこの出来ない少女が互いに心を寄せ合うのは自然な事。
だが、その間も血なまぐさい事件は続く。

エリがオスカーに問いかける言葉が印象的だ。
「入っても良いと言って」
彼女がこの言葉を最初に使ったのは彼女が保護者を失った夜。寝ているオスカーの部屋の窓から彼を訪ねた時だった。
エリは執拗にオスカーに「入って良い」と言わせようとしていた。
それが不思議でしかたなかったのだが、オスカーに自分がヴァンパイアだと知られた後に彼の部屋を訪ねた時になぜかそう聞くか分かった。

オスカーが言うようにそこに壁など存在しない、入ろうとすれば許可など必要なく簡単に入る事が出来る。恐れる必要などない。
けれど、エリにとっては違う。
女の子でもましてや人間でもない彼女は入れて欲しいと願っている相手のテリトリーに勝手に入る事は出来ないと考えている。
オスカーの許可がなければ彼の心の中に入ってはいけないと思っている。
だから彼の「入って良いよ、どうぞ」と言う言葉をエリは必要としているのだ。
それは、彼女にとって自分の存在全てをかけた切実な願いだ。
「私を受け入れて。全てを受け入れてとは言わない。一部でいいから受け入れて」
と。

人の血を喰らわねば生きて行けないエリがこの街にこれ以上いることは出来ない。
エリは街を去り、残されたオスカーに災難が降り掛かる。

*****

体が強張ってしまうような気がするほど、肌寒く、血腥く、恐ろしいのに何故か少しだけ温もりを感じる映画だった。
それは、寒さを感じる事も無く人を喰らって生きる少女に向けられた少年の吐く白い息が、壁越しにモールス信号で会話した指先が、大好きだよと抱きしめる腕がとても温かいからだろう。

孤独、未知の存在(別にそれがヴァンパイアではなくても“他人”であれば皆“未知の存在”であろう)を受け入れること、人に自分の存在を受け入れてもらう恐ろしさと喜びを上手く描いた作品だと思う。

寂しく残酷で美しい秀作。

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